研究室選び

 

 この間,後輩から研究室選びについて訊かれました.その時はその場で思いついた適当な ことを喋ったと思いますが,家に帰って考えていると色々と浮かんできたので語りたいと思います.

 いきなり「研究室はこう選べ!」みたいな書き方をすると,なんだか偉そうですし,それが果たしてその人に合った選び方なのかと言われるときっとそうではないので,まず僕が今いる研究室を選んだ経緯から話そうと思います.

 その後で一応,研究室に入った今あらためて研究室選びについて思うことを書くので,よかったら話半分に読んでみてください.

 

1. 研究室選びに至るまで

 高校の頃は理数科という動物園みたいなクラスにいました.

 副担任が博士号持ちで,海外で理論物理のポスドク研究員を経験したあと高校教師になったという変わった経歴を持った人で,触発されたクラスメイトの何人かが理学部物理学科(あるいは天文学科)を志望していました.ぼくもそのうちの一人でした.

 今思い返せば,僕の場合,研究者という職業とか生き方そのものに対する憧れが強かったのかなと思います.たまたま当時の副担任の専門が物理学だったから最初に物理に興味を持ちはじめ,それが今でも続いています.

 

 そんな僕も受験をして,幸運なことに現役で今の大学に入れました.

 入学直後の周りは,当時の僕と同じように「将来は研究者になって宇宙の謎を解明したい」って言う人ばかりでした.まあ理学部物理学科に態々来るような人はみんなそんなもんです.

 ですが,多くの大学生と同じように大学生になった僕は堕落した生活を謳歌しはじめます.

 大学に入ってとりあえずサークルには1こ入りましたが,学部の友達はできませんでした.ええ,できませんでしたとも.

 講義を受けてて,必要があればその時近くに座ってた人に話しかけて済ませてしまうことが多かったです.

 高校時代からだらけきった生き方ばかりしてきたので,とりあえず朝起きて講義出て,終わったら帰ってごはん食べてネットして寝る,という生産性のかけらもない生活してました.就寝時刻は3時とか4時とか平気でした.

 まあ大学生なんてみんなそんなもんです.

 サークルは,練習会には毎週のように参加してました.趣味が同じ人と話せるのは楽しかったし,上下関係もまったく厳しくないゆるいところだったので自分に合っていました.

 あとは高校の理数科同期の人ら(特に某法律オタク)とよく話してました.

 なので,大学に入って1年くらいは物理学科の知り合いはゼロでしたね.なんと悲しい.

 基本的に講義は1人で受けてノートだけとりあえずとって,だらけきった人間なので特に予習も復習もせず,試験期間に徹夜数回キメて講義でやった計算を覚える,という明らかに間違った勉強スタイルがだんだんと確立しました.

 おかげで,長期休み明けには講義内容なんてサッパリ忘れてますよ,ええ.

 成績は,授業だけは出てたのでGPAで3.2/4.0という,落ちこぼれではないけど特に成績優秀とも言えない中途半端で微妙なカンジです.ハイ.

 

2. 研究室を選ぶ時期になって

 宇宙の起源を計算で解き明かしてやろうという気概で入学した一人の少年は,学部3年にあがる頃には心身ともにだらけきっていて,かつてのやる気に満ちあふれんばかりの瞳の輝きは.まるで感光したPMTの光電面のように濁っていました.

 かといって,社会に目を向けるようになっていたかというとそうではなく,むしろ研究という憧れだけはまだ心の中にあって,就活という未来から目を背けていました.

 幸運な出来事がありました.ようやく学部の友達が多くできるようになったのです.

 青葉山に上がったくらいから講義で席がよく近くなって結構話すようになった友達がいました.その人ともたまに会えば結構話します.

 あと,学生実験で共同実験者になった人で,その人がいた輪に僕も加わって一気に友人が増えたのが大きいです.実験が終わった後に,ご飯をご一緒させてもらって輪に加わりました.

 今でも定期的に宅飲みを開いている程度には交友があります.というか,談話室に行くと誰かしらいるのでそこでよく下らない話をしてます.この間はアマガミのヒロインで誰が一番可愛いかで喧嘩になりました.

 当時の話に戻りますね?

 当時僕は,とっていた統計力学の講義が分かりやすくて,しかも問題を解いて得意だと思っていたので(実際は計算ができるだけだったけど),物性の理論か実験に進もうと思っていました.

 特別,「これがやりたい!」って思う研究分野も無くて,というかどういう研究室があるのかさえ全然知らなかったので,基礎ゼミで行った研究室に話の面白い教授いたなあとか,サークルの先輩が所属してる理論もいいかもなあとか,なんとなく思っていました.

 研究室見学は6, 7か所くらいしました.友達と一緒に見に行ったところもありますし,自分一人でアポとって行ったところもあります.

 友達も物性に結構興味があるみたいで,友達とは物性系を中心に見て回りました.しかし,その中に僕が選ぶことになる研究室はありませんでした.

 僕が研究室を決める上で決定的な出来事が,3年後期の物理学科の新学期面談でした.

 僕が通っている物理学科には,学部生は新学期になったら割り当てられた教員(もしくは希望する教員も可)と必ず面談をしなければならないという決まりがあります.成績不振者に対するフォローや進路相談などを目的に行われているそうです.

 3年の後期セメスターの面談で僕に割り当てられたのは,原子核の某教員でした.しかし,僕が面談をしてもらいに居室を尋ねると,その日はたまたま出張でご不在で,出直そうかそれとも別の教員に行こうかと迷いながらウロウロしていたところ,隣の居室の扉がガチャっと開いて「僕に何か用ですか?」と顔だけ廊下に出して尋ねてきた人が,今の僕の指導教員です.

 せっかくなので,その場で面談をお願いしたところ快く引き受けてくださって,研究室について尋ねてみると,自分の研究内容をものすごく楽しそうに話されました.それまで原子核なんて講義もとってないですし,考えたことも無かったのですけど一気に惹かれました.

 その頃,自分がとっていた物性の講義が難しくなって理解に苦労して,物性特有のk空間で物事を考えることが自分には向いていないんじゃないかと思っていた時期でした.面談の時に自分の研究構想を夢のように語る今の指導教員の話を聴きながら,自分の中に,かつて自分がやりたかった宇宙に関わる研究をやってみようかなあという気が起きました.原子核を通してなので,昔の自分が思い描いていた研究とは少し違うけれど.でも,たまには初心に戻って素核をやってみるのも悪くないんじゃないかと,そう思ったわけです.

 その後,友達といくつか研究室を見学して回りましたが,僕の心はほとんど決まっていました.僕の仲いい友達はほとんど物性の研究室に行ってしまいましたが,それでも迷いはありませんでした.幸いなことに,僕の成績で第一志望が通ることができ,今いる研究室に配属されました.

 

3. 配属されて思ったこと

 実際に研究室に配属されてみて今思うことを挙げます.

*) 自分の好奇心に身を任せることが一番大事

*) 実験系は思ったより物理ができない

*) 明らかに黒い噂が立っているとこはやめとけ

*) 視野を広げること

*) 最低限講義には出とけ

*) 友達はもっと大事

 以下,詳細です.

 

*) 自分の好奇心に身を任せることが一番大事

 これに尽きると思います.院まで行くことを考えると最低3年間その研究室で研究をするわけですので,あまり打算的な思考はせず素直に自分の興味を優先した方が良いと思います.僕も,原子核に関する講義の一切をとらずに興味だけで今の研究室に飛び込みましたが,それでも何とかなってます.今のところ.教科書を読んでも理解できてない部分だらけですが,それでも研究の話をしたり聞いたりするのは楽しいですし,来て良かったと思ってます.

*) 実験系は思ったより物理ができない

 実験系の研究室の宿命と思った方が良いかもしれません.どうしても,試料作製やら装置のセッティングやら結果の解析といった作業面に時間がとられて,肝心の専門の勉強をする時間が無くなってしまう傾向があると思います.そのくせ,研究室のセミナーでは物理の理解が求められます.これがなかなか大変.自分は,今までの堕落しきった生活リズムを見直すことで何とか頑張っています.早起きは大事ですね.

*) 明らかに黒い噂が立っているとこはやめとけ

 ネガティブな話題で申し訳ないですけど,やはりこの話は外せません.

 現在,大学でポストを得て教授だとかそういうポストを得ている人というのは,少なくとも過去において一流の研究者として立派な業績を上げてきた人なわけです.ですが,一流の研究者が,一流の人格者や一流の教育者とイコールというわけでは必ずしもないのです.クラシックの偉大な作曲家が人格破綻者ばかりであるのと同じです.

 その点でも,僕の研究室は恵まれています.スタッフの皆さんは訊けば答えてくれますし,悪人でもありませんから.

 僕たちは学費を払う立場にあるので,本来は必要かつ十分な研究指導を受ける権利があるはずです.ですが,残念なことに学生に対して教育者として非道としか思えない言動をとる教員が,数は少ないですがいるという話は,聞く話です.

 ですので,主に指導教員についての悪い噂が立っている研究室は,研究室を選ぶ我々の立場からすれば避けた方が無難です.勿論,人間関係ですので相性の良し悪しは個人差があると思いますが,警戒くらいはした方が良いです.

 僕が聞いた中でも酷いと思っているのは,あくまで伝え聞いたものなので信頼できるかは怪しいですが,

 *) セミナー中の度重なる人格否定発言により,うつ病に罹る学生や退学者が多数

 *) 学生に就活をさせない

 *) 学生の指導に興味が無く完全に放置している

 *) 研究室と全く関係無い私用を学生に押し付ける

といったところです.

 誤解がないよう補足ですが,研究室の指導では,手取り足取りなんてことは無くある程度学生の自主性に任せて丸投げされるということはよくあります.なんでもかんでも教えてもらえると思っていると恥ずかしい目にあうと思います.また,研究室内では,誰かがやらなければいけない仕事みたいなものはあって,そういうのは学生が分担することになります.結局は事の性質と程度によりけり,常識的な範囲内かどうかという問題かと思われます.

*) 視野を広げること

 これは,一番初めに述べた「自分の好奇心に身を任せることが一番大事」とセットです.せっかく物理学科に入ったのだから,素粒子や宇宙だけではなく物性にも目を向けましょう,という話です.磁性も超伝導半導体バイスも生物物理も立派な物理です.僕は結局初心に帰って素核の研究室を選びましたが,あの時物性を選んでいればと思い返すことが結構あります.そのくらいには物性に未練もあり,この間も物性の本をいつか読もうと思って奮発して買ってしまいました.誰か一緒にゼミやりませんか?

 せっかく色んな研究室があるのだから,せめて今とっている講義の担当教官がやってる研究室のWebサイトくらいは見てみると良いと思いますよ.どうせ講義つまんないでしょ? 意味不明な講義してる人でも,ものすごい業績の持ち主かもしれません.

 研究室訪問はすればするほど良いです.1, 2年のうちからしても全然良いです.少なくともうちのスタッフ陣なら喜んで対応しますよ.きっと面白い研究の話をしてくれます.

 いろんな分野に触れてこそ,本当に自分が興味ある研究が見つかると思います.それに,研究の話を聞くこと自体が結構楽しいですよ.研究室選びは迷ってナンボです.

*) 最低限講義には出とけ

 講義は大事です,なぜなら成績は大事だからです.うちの学科では研究室配属は完全に成績順で志望が通っていきます.たとえ出席をとらない講義でも,試験で良い点を取る最短の近道は講義に出てノートをとることです.その場で理解しながら聴けると一番良いですけど,ノートさえあれば後で見返していくらでも考えることができます.ノートさえとっていれば後は試験期間の自分が頑張ってどうにかしてくれます.講義でやってない問題が出題された時は諦めましょう.どうせ誰も解けやしないので.

 普段から自学自習を欠かさないことができれば満点です.僕はそれが全くできませんでしたけど……

*) 友達はもっと大事

 僕は幸いにも学部3年の時に良い友達に恵まれました.周りの友達はみんな僕よりも物理ができて,それでいて気が合います.物理の真面目な議論をしたり,教授のネタで笑いあったり,下らない話題でバカ騒ぎできることは幸せです.また,研究室選びや院試勉強の時はかなりの量の情報を得ることができたのも友人たちのおかげです.

 そして,研究室の同期でも良い友人ができました.この人もまた出来る男で,彼が新しく主催した自主ゼミに参加させてもらってから,僕はゼミで仲間と勉強する楽しさを知りました.見よう見まねで,僕も新しく原子核の教科書を読むゼミを始めてみました.教科書が難しくて大変ですけど,結構野心的で面白いです.

 こういう友人たちに,もっと早くに出会いたかったと思います.そうすれば,一番無駄に過ごした時間が多かった学部2年の前期までの期間で,何かもっと専門の知識が得られたのかもしれません.研究室に入って,勉強不足を痛感することが多々あります.特に,電磁気の知識が足りなさすぎます.

 僕は1年の頃,一人で講義を受けながら,漠然と何かを変えたいと思っていました.おそらく,こういう友人の存在を望んでいたんだと思います.ですが,周りは知らない人ばかりで,勉強法も分からず,どうすれば良いのか分かりませんでした.

 こういう思いを抱いている人はきっと他にもいると思います.なので,今僕は下級生や他学部の人も一緒に参加できるようなゼミか何かをやってみたいと思っています.まだ漠然とやりたいという思いだけですけど,ぼくも色々と物理に関係なく勉強したいことが最近増えてきたので,どうせ勉強するなら一人より大勢でやった方が楽しいし,ペースメーカーにもなります.何か案のある人や興味のある人は声をかけてください.勉強は楽しいですよ.

 

 なんだか長々と研究室選びと全然関係ない話にまで広がってしまいましたが,こんな感じで,思いつく限りのことを書いたと思います.また何か思い出したら加筆するかもしれません.

 次は何を書きましょうかね.院試勉強のことでも書きましょうか.